排卵誘発剤

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「先生、体はいくら楽かしれないけど、やっぱり母親にとっては自分のお腹を痛めた子じゃないと……ねえ」
まさに健康で、正常な意見である。〃日本のおかあさん″はいつまでもそうであってほしい。
「それにネ。この方法は大変危険なんです」と私はつけ加えた。
「もし途中の段階で、出来が悪そうだとか、希望の性別でないとわかったとき、捨てられる恐れがある。人命の軽視につながるんですよ」
もっと極端にいえば、受精卵は物理的にいくらでもつくれる。
これを大量生産して男性ばかりをつくり出し、戦争へ駆り立ててやろう、というような人物が国家権力をにぎったら、どういうことになるだろう。
「医学の根本原理は、人間の幸福を育てること。この初夢は危険性がありすぎるようで、ボッにしたほうがいいようですな」。
私はZ夫人の美しい晴れ着に向かって、思わず苦笑していた。
L代さんの申し入れは、最初から無理な話だった。
「先生、もう面倒だから、お産はいっぺんで済ませたいんです。だから、ホラ、あの排卵誘発剤をたくさん使ってくださいな。双子でも三つ子でも、構いませんから:.…」
私は驚き、あきれ、しばらくはポカンとL代さんの無邪気な顔を眺めていたほどだ。
「それで五つ子でもできたら母体がガタガタになって、生命まで危ないですよ。子どもだって双子ならいいけど、それ以上になると生存率も低いことを知らないんですか」

あの山下家の五つ子は大きく報道され、全国民から祝福と微笑を贈られた。

出典:安心 出会系